Give / Let’s upgrade our world !

Advent Calendar が回ってきました。 先日レドモンドにあるマイクロソフトの本社を訪問したのですが、その時に見かけた看板に記された「Give」「Let’s upgrade our world」と二つの言葉がとても印象に残ったので、今回はこれとOffice 365 をこじつけて、これからの働き方のヒントについて書こうとおもいます。

<キーワードはGive>

ぼくが数年前から参加しているコミュニティのひとつにEGMフォーラム(Employee Generated Media Forum)という場があります。このコミュニティの中で大切にしている価値観のひとつに “Give and Given” というものがあるのですが、これは「与えていこう」という価値観です。

一般的によく使われる “Give and Take” というのは、「何かを与えたら代わりに何かをもらう」という、ある種の交換条件の中で人間関係性が成り立つものですが、Give and Given ではとくに相手からは求めません。「相手に喜んでもらえば、そのうち相手から溢れた幸せが 自分のところに落ちてくるさ。」そんな気持ちを大切にしてコミュニティ運営をしています。
損得勘定でコミュニティを運営しても決して魅力的な人や情報は集まらないからです。

こうした考え方はビジネスにおいても同じであることが証明されています。「これだけのお金がもらえるからやる」「偉くなれるからやる」、そうした交換条件からは本当に社会に役立つアイデアは生まれてこない・・・。ダニエル・ピンクのモチベーションのがあまりに有名ですが、これからは損得勘定とは別のところから発生する「Give」という考え方がとても大切になってきます。この看板にはマイクロソフトがこうした価値観に対して真剣にコミットしイノベーティブな企業であろうとしている姿が表れているではないでしょうか。

「Let’s upgrade our world」

もうひとつこの看板には小さく「Let’s upgrade our world」 という言葉が記されています。昨日「ハーバード・ビジネス・レビュー読者が選ぶベスト経営書2015」というリストが発表されたのですが、このリストにある本の多くは働き方のupgradeの話に触れています。

最近マネジメントでよくいわれる言葉に「コントロールからエンパワーメントへ」ですとか「ヒエラルキーからホロクラシーへ」などさまざまなコンセプトが聞かれますが、基本的にはすべてEGMとかCGMに代表されるような個人へのエンパワーメントを可能にするテクノロジーの存在が前提になっています。つまり、世界の経営者はいまこれらの本に書かれるようなUpgradeを必要としている、<イコール> それを支えるテクノロジーが不可欠ということなのです。

Office 365は世界をUpgradeできる優れたコラボレーションツールであることに違いありません。しかし残念ながら優れたツールを使うことが優れたマネジメントを生みだすということは必ずしも<イコール>となりません。

たとえば企業において「コミュニケーションの活性化」という課題に対し、すぐに新しいツールの話を持ち出され、こんな機能やあんな機能を取り上げることがありますが、前提の考察がスキップされていることが多々あります。

ツールの前に、会社の相互扶助に関わる仕組みはどうなっているのか、Upgradeすべき企業文化はどういったものなのか。そうした問題をサポートするのかしないのか? つまりこうしたスペックのハコをつくりますという事の以前に前提があるだろうという事です。それを問題をスルーしては、いくら素晴らしいツールの話を持ち出しても働き方のUpgradeは決して上手くいかないでしょう。

Office 365 は 社員のどのようなコミュニケーションをサポートし、どのような触媒になろうとするのか? そうした問い直しがいま必要になってきていると思います。
年末年始もし時間にゆとりができたらこのリストにある本を手に取ってみてはいかがでしょう。きっと働き方のUpgradeに役に立つヒントが多く隠されているはずです。

社内コミュニケーションの デザインについて

エンタープライズソーシャルに期待する効果として、コミュニケーションの活性化というものがあります。そこには、形式的で一方通行な「報告」や「質問に対する答え」というやりとりではなく、多数の人からなるダイナミックな情報交換から生み出される「新しい知恵」というものが期待されるわけです。

しかし、いくら仕掛け側がそういうダイナミックなやり取りを期待しても、そもそも普段の人間関係やコミュニケーションの状態がそういうコミュニケーションを推奨していない状況であれば、いくらオンラインに集会場をつくっても上手くいく筈がありません。たとえば、上司を押しのけて<わたしとしての意見>を主張することが善とされない社風があったり、<確実な>発言しか(思い付きの発言は)認められないという状況があれば、エンタープライズソーシャルが新しい意見に満ち溢れることはないわけです。

一般的に伝統的な組織であればあるほど、歴史に刻まれたコミュニケーション作法が多く存在し、固定化された人間関係性があります。そこに異質な価値観を持つものや、これまでの人間関係を崩すような影響を与えるようなコミュニケーションが発生するとなると、当然そこには「排除」の力が働きますので、<何故そのコミュニケーションが必要なのか?>という共通前提が組織内に共有化されることが大事となります。

H・コートニーという学者が “Strategy Under Uncertainty” という論文で、不確実性には4つのレベル <①確実な未来 ②選択的な未来 ③一定幅の未来 ④不確実な未来>があると述べているのですが、②のようにA/B/Cのような選択肢の中から合理的なものを選ぶためのコミュニケーションと、④のように不確実性の極めて高い状況で必要とされるコミュニケーションとは異なります。

ある企業では、社内SNSは意見の<発散の場>と定義しました。それに対して、これまでの会議や同等の機能を持った場は<収束の場>として区分され、①~④これらの全体の流れをビジネスプロセスに組み込むことによって社内SNSを無計画な集会場で終わらせることなく一定の価値を生み出しています。それを彼らは<コミュニケーション デザイン>と呼んでいるのですが、コートニーが “Strategy Under Uncertainty” というように、不確実性の高い状況下には、組織にふさわしいコミュニケーションが何か、我々にこのコミュニケーション テクノロジーをどう適用することができるのか、そういった新しい議論が必要なのではないでしょうか。

「多孔現実」をハックする

かつては、同じ物理空間を共有しているという事実性が、人と人との親密度に大きな景況を与えていました。しかし、いまはいつも近くにいるからといって特別に親しいとは限らない。例えば、女子会最中にFacebookに写真を投稿する光景にみられる <隣の知人より遠くの他人>  という現実。どこまでも遠くにいる人と、自分としてのコミュニケーションが出来るわけです。

かつての馬車から自動車へという移動手段の発達が、特定地域の人との関係性にコミットメントしなくてはならないという必然性をなくしたように、テクノロジーは選択の自由度を格段に高めます。その結果、いまは物理的に近くに存在していても、そこで関係性や共同性が生成されているわけでも、必然性もないという親密性の変容があるわけです。

社会学者の鈴木謙介氏が、いまは至る所にいても、複数の意味空間へ繋がる <孔> が空いていると「多孔空間」という言葉で説明しているのですが、ウェブにより多孔化すると、意味空間と物理空間が次第にずれ始めていく。<孔> から次から次へと外部と情報のやり取り(例えば授業中のTwitter)が発生し、意味空間を保つのが困難になり、多孔化の果てには、親密性の変容、公共性の困難が立ち上がり、そして物理空間の中の存在がバラバラになっていくと指摘しています。

物理空間の存在がバラバラになっていくと、存在をまとめようとする力が働くことがあります。スマホいじるの禁止、オンライン禁止、のような外からの情報流入が制限され、物理空間では威厳のある人も、別の空間に移るとそれを保つことができなくなるわけです。しかし、このような「多孔現実」をハックすることで、より新しい面白いコラボレーション空間を作ることができるのではないでしょうか。

ビジネスの場で考えれば、物理的なオフィス空間と論理的なウェブ空間の意味を別々に考えるのではなくシームレスに繋がる公共空間をデザインし、<物理空間を共有しているという事実性> 以上の意味性を流入させることができれば、人との関わり方も、働き方も今とは全く別の形に変わってくるわけです。

たとえば、物理的な距離を縮めることはできないとしても、「認知的な距離」をコントロールすることで近接性や親密性を高めていくような設計はできるはずです。「遠く離れた国があるとしても、飛行機や列車を使ってそこに簡単にいけるということがわかればその場所は心理的に近く感じる。」「今までよく知らない人だったが、同じ中学校を出ていたと分かった途端その人が近く感じられる」「アフリカの奥地で偶然であった人が日本人だったというだけで大きな感動を味わってしまう」そういう認知体験を多く作り出していくことが、コミュニケーションにとってポジティブな影響を与えるわけです。

オフィスの生産性という際、物理的なものにばかり注目してしまうのは余りにもったいない。そうしたテクノロジーを使ったこれまでにない意味性を持たせる空間デザインがますます重要になってくるのではないでしょうか。

エンタープライズソーシャル ローンチ前のヒント

常に優れた製品が利用されるという誤解

必ずしも優れた製品が利用されるわけでも、すばらしい機能がみんなのメリットに繋がるわけではありません。たとえば、かつて機能的に優れたベータがVHSに敗れたように、機能的に優れた製品であっても自分だけ他と異なる選択をすることは損をすることがあります。これはエンタープライズソーシャルでも同じことが言え、自分だけ他の行動をとって出る杭になるより、同じ行動をとったほうが得だというネットワーク外部性の問題です。

特にコミュニケーションツールのように「情報が確実に相手に伝わる」という接続性が優劣を決定する製品・サービスに関して言えば、一定の普及率の確保こそが極めて重要になります。例えれば、いまTCP/IPより多少優れた技術が登場しても皆が利用しない限り他に転じるインセンティブはないわけです。

全体最適化されないのは何故?

他の人々が今の行動を変更しなければ、自分だけ行動を変更しても自らの利得を増すことはできないというように、これ以上自らの行動を変更するインセンティブがない安定的な状態を経済学でナッシュ均衡と呼んでいます。(A)と(B)はともに安定したナッシュ均衡であり、皆がVHSを利用する限りは他に転じるインセンティブがなく、皆がDVDを利用する限りは他に転じるインセンティブがないという均衡です。このように部分最適(A)から始まるとそこから自分だけが降りることは望ましくないので全体最適化を実現できない状況が企業内でも起こるわけです。ゲーム理論で登場する「囚人のジレンマ」は、個人の最適化を図ろうとした選択が、結果として全体の最適選択とはならないというモデルですが、(B)の全体最適化への移行のためには(A)の安定状態を突破する必要があり、そのためには(B)への変化で得られる「期待値」の共有と、それに対し皆が協力する(決して裏切らない)という「信頼」の構築が不可欠になるわけです。

絶対に降りないというコミットメント

新しいサービスや商品が世に知れ渡れ、普及していくまでに最小限必要とされる市場普及率を <クリティカル・マス> と呼んでいます。その市場において多くの人が受け入れることができる利用価値が達成される普及の度合いであり、この普及率を超えるとその製品・サービスは急速に広まっていくとされています。クリティカル・マスを確保するためには、例えば「初期採用者(イノベーター、アーリーアダプター)を確実に獲得する」「初期段階では利益を度外視してでも戦略的な価格設定・宣伝を行う」というような様々なやり方がみられますが、重要なのは、このような先行投資により、絶対に主催者側がこのゲームから降りないという誰もが信じられるコミットメントを示すことにです。企業内においては、経営層の「何が何でも降りない」という断固たる姿勢が非常に重要になるわけです。

絶対多数の社員たちが、新しい変化を受け入れるためには、まずは全体最適化というナッシュ均衡が存在するという知識を共有する必要があります。つまり、期待値がXより上となること。次に、そこで協力していくことが合理的だという期待感が共有されることです。ただ、より本質的な問題はこのうちの後者であり、派手なローンチイベントや社内報で宣伝を打っても、社員にからみて「うちの会社には無理」というように期待感が共有されなければ変化は期待できない。逆に後者が成りたてば、他部門を出し抜いて自分たちの部門を成功させようとする者も自ずと出てきます。

最も困難なのは、これまでの不合理な暗黙のルールを清算して、これ以上悪い均衡にとどまっていても損するという状況を作りだしていくことだと思います。その際、全員から共感を得ようとする必要はないですが、逆にいくら素晴らしい変化であっても閾値を超えない限り普及は望めない。イノベータ―やアーリーアダプターが信用されない状態でいくら普及活動を行っても、組織はすぐ悪い均衡(A)に戻ってしまうので、この場合、期待効果が出現するポイントまで一気にリソースを投入していくことが成功の鍵になります。

※下線部に対して成功している企業は導入準備段階で戦略的な期待値コントロールをしている。

エンタープライズソーシャルの誤解

グローバル化によってもっとも成功するのはユダヤ人や中国人だと言われます。例えば元服の儀式にネットワークメンバーが大挙集まって、「前田くん、君はこれから何になりたいのかな? 法律家ならこのオジサン、医者ならこのオバサン、実業家なら・・・」と繋いでいきます。こうした習慣が全く存在しない人々が、丸腰の個人でグローバル化した経済ゲームを戦っても勝てません。つまりネットワークが重要です。

Wikipediaよれば、エンタープライズソーシャルネットワークは “Enterprise social networking focuses on the use of online social networks or social relations among people who share business interests and/or activities” と説明されていますが、ビジネスにおいて有効な人々の繋がりを、テクノロジにより広範囲に広げ、血縁関係のようなものがなくとも、いざと言う時に助けあえる相互扶助の関係を築きあげることが出来ればそれは強い力になります。もしあなたが海外でスタートアップを立ち上げようとするとき、どんな手助けが必要になるかということです。

よくソーシャルネットワークをこれまでの集権型組織との対立させた図式を見かけますが、市場ゲームを個人や個人主義に結び付けるのは誤りです。相互扶助の依り代となる中間集団を否定しないもうひとつの<システム>をいかに作るかが課題ではないでしょうか。

やる気を支えるプラットフォームとは

エンゲージメントとは、近年、経営学の中などでも着目されている概念で、米人材コンサルティング会社、KeneXa High Performance Instituteによれば、「やる気」と訳され、2013年の頭に「世界でダントツ最下位!日本企業の社員のやる気はなぜこんなに低いのか?」 という記事でネット上で話題にあがりました。そこでは、社員のやる気が失われてしまったのは、企業と社員の価値観が噛み合っていないからであり、エンゲージメント を実現するためには、しっかりと企業理念を社員と意志疎通させることが重要だと述べられています。

その指摘は重要で正しいと思います。しかし、あえて違和感を指摘すれば、そのような「価値観のズレ」の問題はどこの国でもあるということです。実際に日本の「やる気」がダントツ最下位であるという事であれば それを左右する日本固有のパラメータがあり、それはESNの展開においての大きなリスクとなることを考慮しなければならないです。

例えば、雇用の問題で言えば、評価における「減点方式」「やらされ感のともなった人事評価」といった仕組みの問題、社員にやる気があっても出る杭にならないように余計な発言を避けようとする振る舞いや、衝突を前提とした対話経験が少ないが故に建設的対話に発展できない風土の問題。実力主義でも年功序列でもない上に、大きな成功より小さな失敗がこの先の長い将来に影響するとなると、必然的に社員は「ローリスク・ローリターン」な選択をせざるを得ないことになります。

中央にアピールできないような努力はしても報われないということになってくると、長期的に見ても社員の能力水準や努力水準を大きく下げることになります。これらの問題に目を背け、社員同士の自由闊達な議論などは起こるわけもなく、”やる気” をもった個人が積極的に議論を交わすとした理想も建前として終わってしまうと思います。

テレビドラマ「半沢直樹」が務める会社のように、発言したはいいけど帰ってこれるプラットフォームが存在しないということは確率論的なリスクではなく、単に危険であり 社員の “やる気” どころの話ではないわけです。

まとめ Business Social Communication Forum ~ソーシャルで進化する社内情報共有ソリューション~

8/30@品川 イベントメモ

参加者 陣屋 代表取締役社長 宮崎 富夫 氏/セールスフォース・ドットコム 関 孝則 氏/日本IBM 行木 陽子 氏 八木橋 Pachi 昌也 氏/日本マイクロソフト 米野 宏明 氏/アクセンチュア 立花 良範 氏

※私の解釈でまとめられていますので、一言一句同じコメントをしているわけではありませんのでご注意くださし。

陣屋さん「陣屋ではこれまでパソコンを使えるスタッフがほとんどいなかった。上は75歳という ITが得意でない人に対しても、そのマイナス面を上回る優れた効用を生み出し、裏方の仕事を減らして本業に専念できるようになった。 SNSの成功は1日にしてならず。1.01の法則で365日一歩一歩の積み重ねが大切。」

JAL「”JAL Philosophy”を作ることにより、社員1人1人がJALであることと責任を再認識。これまでの官僚的で顔が見えない組織からの脱却を目指した。立場は違えども自分たちに何が出来るだろうと1人1人が考えることが出来るようになった。 周りの社員からの刺激を受け、自らも羽ばたいていけるようになった。これこそがソーシャルの力」

SFDC関さん「かつて電話の時代では隣から会話が聞き漏れてくるから、自然に何かあればお互いに助け合うことが出来た。 現在では組織は変わらないが、そのスケールは変わった。 壁の向こう側に専門家がいることもある。ソーシャルによってスケールを超え、スピードと濃密なコミュニケーションを取り戻すことが出来た。」

トヨタさん「グローバルでソーシャルを利用するトヨタでは社員ひとりの質問に対して、数分後には世界中から多くの回答が寄せられる。 いままでは1年に一度しか会えなかったと人と、今は世界中の人と絶えず繋がっていることが出来る。ソーシャルはこれまでの人生の中になかった経験である。」

IBM行木さん「IBMではCEOが変わり社長が社員に対するメッセージをビデオにとってブログに乗せた。その日の内に20万の社員が閲覧した。ビデオの横に流れるTLには多くの社員からフィードバックが寄せられた。これまではメール。読んで終わり。臨場感も一体感も共有できなかった」

IBM八木橋さん 「IBMではESNをコミュニケーションツール ナレッジシステムとは考えていない。オンライン上での働く場所そのものと考えている。 社内への浸透のさせ方。重要なのは使うと得、使わないと損。ということを実感させること。伝染させていくこと。」

MS米野さん「どのような情報も文脈の共有がないと、本来の情報価値が活かせない。BIなどもそうである。トップダウンで知らされた情報を誰がどのように受け取るかは文脈次第。 ソーシャルの優れた点は、情報の伝播力、気軽な反応、双方向承認。状態の把握ができること。」